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高次感覚を鍛える
最近の企業では、白色の天板のOAデスクが一列に並んだ、整然としたオフィース風景が目につきます。無駄がなくいかにも生産性、効率を重視したレイアウトが前面に出ています。この並びを見るとなぜか30年前に作られた筑波の研究都市を思い出します。碁盤の目のように直線的な道路がひかれ、申し訳程度に植えられた街路樹の向こうに、直線を強調した白いコンクリートの建物が見えてきます。できた当時はこれが近代的な都市の象徴のように見えたものです。筑波博が過ぎ、年月を経てくると、なんと味気ないものかと思うようになってきました。ここに勤務している研究者が“人が住む場には適度な無駄が必要ですね、せめて居酒屋の赤ちょうちんがあれば、癒されるのですがね・・”の言葉が今でも印象に残っています。
働く場も同じですね、人が働いているときも、その前提には「生きること」があり、働くことだけが独立した行為ではなないのです。生きること、社会性、就労は一体的なものなのです。決して人は効率を追い求めるロボットではないのです。自ら感じ、考え、行動する、この基本的な機能を有しているのが、生き物としての「人間」だけなのです。
このところ、その「人間」が生まれながらに持っている基本的な機能を軽視することが目につくようになってきました。近代化や最先端技能などのキーワードで人工感への偏重が進み、自然や生き物感が薄れてきています。都市や職場はその中心になっています。そのような空間で生活し、働いている人たちが、いつのまにか人間本来持っている感覚が退化していることは、容易に推測できることです。
人間の脳の機能に、「高次感覚機能」があります。これは、物事に注意を向け、以前の記憶と照らし合わせて認識することや、新たに記憶・学習していく働きです。これらの認識に基づき、判断を下し、どう行動したらよいかを計画することも高度な脳の働きになります。人間はこの高次脳機能を発達させ、自分の経験だけではなく、他の人の経験も自分のものとできるように、 コミュニケーションのツールとして言葉や文字を発明してきたのです。よりよく生きていくために、見たり聞いたりしたことを整理し、統合させて行動に結びつけるための機能が脳には備わっています。
この高次感覚を育成するためには、自然の生き物である「人間」が自然との触れ合いを多くしていくことです。太陽や月、風や雲、気温、雨や雪、山や森、鳥のさえずりなどを感じる機会を増やすことです。ビルの中で働いた後は、赤ちょうちんに立ち寄り、ほろ酔い気分で月を愛でる・・町に住む人にはせめてこんな日常が必要ではないでしょうか。