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「深く考える」を習慣に
8月になり、今春から新卒で職場に赴任した人たちが、そろそろ仕事に慣れ、自分の役割を徐々に理解する時期だと思います。ある企業の調査結果によると、新卒の方の仕事に取り組む姿勢に偏った傾向が出ているとのことです。例えば、業務の指示をした場合には、素早く内容を理解し正確に処理する・・といった能力に長けている傾向が強くなっている。データや情報を駆使して上司の命令を的確に把握して業務をこなしていく能力に優れているとのことです。その一方で、業務の指示が曖昧であると期待通りの成果が見られないなど、行間を読むことや気働きができないなどの主体性に課題がある・・とのことです。
企業での業務の指示は多くの場合、言葉で行われ、書類などの資料がついています。彼らは、資料を確認し、文章の意味を的確に理解はするのですが、その言葉の裏に秘められていることまでは、想像してはくれないようです。与えられた事柄は正確にできるのに、それ以上のことは、決して独自に進めたりしない。実に勤勉で忠実なのですが、果たしてそれだけでいいのでしょうか?
福祉の現場で、「深く考える」について、どのような事例があるかを書いておきます。職員は事前に決められた利用者別の個別支援計画書に従って、障害特性や就職への思いや希望を考慮し、支援ポイントを具体化して、日々の訓練プログラムを実施していきます。順調に成果が見られる場合はそれでいいのですが、一定期間を経過しても成果が出ないことがあります。このような場合には至急、検討会を開き他者のアドバイスを得て想像できる可能性を洗い出し、支援ポイントを修正していきます。それでも成果が出ない場合には、立ち止まってしまいます。
「深く考える」は、ここからはじまります。なかなか成果が出ない場合には、その原因をさらに深く、多面的に検討することになります。もう一度原点に返って、利用者の思いの確認や訓練時の指示出し、指示受けの細かな事実を洗い出していきます。指示の仕方、言葉や文字、図などのツールの使い方や組み合わせについても確認します。障害特性には書かれていない“なに”があるかを見直します。例えば、聴力について、聞こえているが言葉の理解はできているか、話す速度は、使っている言葉の種類は・・、視力について、見えているが文字の認識や理解はできているか、文字数や難易度は、支援の組み合わせで効果が期待できるか、など手順を追って検証します。もう一度、コミュニケーションの原点である、「伝えること、伝わっていること」について、見直してみることになります。
「深く考える」は、事象を重視して物事の判断をすることへの警鐘でもあります。物事の本質や原則を基準に、主体的に思考を構築することなのです。事象では現れてこない、新たな事実や方向性を探ることなのです。事象から本質への思考法が習得できると、同じような事象に容易に応用することができるようになります。試験の点数で評価されてきた彼らが、事象重視になることは当然なのです。ただ仕事の現場は、まだまだ未成熟な状況なので、改良や改善しなければいけないことが山積しています。ですから受け身型の姿勢ではすぐにやっていくことができなくなります。
人間には無限に感じ、空想することができる素晴らしい能力があります。それを仕事に生かすことが“働くことを豊かにする”ことになるのです。「深く考える」は、事象ではなく、本質から考えることであり、それが新たな可能性を広げることであることを理解してほしいものです。