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人の声質

ニュースで御嶽山が噴火し、多くの死傷者が出たことが伝えられています。映像からは大量の粉じんが上空に舞い上がり、風に助長されあたり一面が火山灰に覆われ、山の木々の美しさはなくなり、無機質な光景が広がっていました。登山中の人たちは、一瞬なにが起こったのかわからない、時間が止まるような驚きを感じられたのかもしれません。粉じんと熱風が猛烈な勢いで迫ってくる瞬間に、人は何を思い、行動できるのか、私には想像を超えるものでした。一人でも多くの方が無事であることを祈るばかりです。

私は喉頭摘出者ですので、皆様のように自然の声を発することはできません。16年前に病気で喉頭を摘出し、当初の会話の手段は筆談でした。いつもマグネット式のプレートを持ち歩き、必要なときに文字や図を書いて、意思を示していました。声と違い、文字は意思をある程度集約したツールなので、伝えることができる意味や対応性には限界があります。

次に食道発声法の訓練を受けました。これは発声に必要な空気を口から飲み込み、食道に溜めて、げっぷのように発声のタイミングに合わせて、空気を吐き出すものです。最初は、「あ、い、う、え、お」の母音からで、順次これらを連続して発声することに取り組みます。私はこの長音及び連続発声がどうしてもできませんでした。

代替の発声法に「人工喉頭機器」を使ったものがあります。首に音を発する人工喉頭機器を当てて、内部に音を入れ、口や舌を使って、「音を声」にする手法です。私にはこれが意外と合っていたので現在でも使用しています。ただこれの欠点は、「声」に抑揚がなく、「機械音」に聞こえることです。「声質」は、会話時にその方の印象や話の内容に大きく影響を及ぼします。

この人工喉頭機器を使っている人たちの「音」を「人の声」に変換する技術を研究されている方がいます。奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 知能コミュニケーション研究室の准教授 戸田 智基先生です。機械音になっている音に、抑揚を付加し、人の声のような質にリアルタイムで変換し、それを増幅すること等を研究されています。

先日私どもの職員研修会にお越しいただき、私の人工喉頭機器での「声」を収録されました。これをもとに、変換テーブルを作成されるとのことです。発声機能をもつ唯一の生き物が人間であり、声で膨大な情報交換と詳細な意思交流をします。自然な声を失ったものにとっては楽しみな日々になります。これからのご研究の成果を待ちたいと思っています。

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